パラスポーツ・パラアスリートの支え手の方々からのメッセージ ~パラバドミントン~


 パラバドミントントレーナーをされている内薗幸亮(うちぞのこうすけ)さん支え手としての役割、パラスポーツやパラアスリートの魅力などをお伺いしました。
 パラバドミントンを支える方、競技、選手を知って、みんなで応援しましょう。

★パラバドミントン
 内薗幸亮(うちぞのこうすけ)さん
 (トレーナー)

(写真 ©️2021一般社団法人日本障がい者バドミントン連盟)

<プロフィール>
1981年生まれ。福岡市在住。
理学療法士、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツトレーナー
2006年より理学療法士として福岡県の整形外科病院勤務。プロスポーツ選手含め、様々な年代・レベル・競技を行う方の理学療法や、メディカルチェックに携わる。予防活動や現場での活動に興味を持ち、2013年からは、スポーツ現場や在宅医療の現場にて活動。2015年より日本障がい者バドミントン連盟にて医事部業務に携わる。

パラバドミントンに携わることになったきっかけ、活動内容について教えてください。

 私は、高校生の途中までは、工学系の大学に進学をしようと思っていました。しかし、高校3年生の時、テレビでスポーツトレーナーの特集を見て、自分自身も野球やバスケットボールなどをやっていた時のケガで思うようにプレーができない経験があったことから、スポーツをしている人やケガをしてしまった人たちをケアするような仕事もすごくいいなと思い、色々探していた中で選んだのが理学療法士でした。当時、理学療法士は今ほどの知名度もなく、高校3年生からの進路変更に、父親含め学校の先生など周りの方と何度も話し合ったのを覚えています。 
 パラスポーツに関わるようになったのは、理学療法士として福岡の病院で働いていた時に、飯塚国際車いすテニス大会(JAPAN OPEN)という大会があって、そのトレーナールームに、ボランティアとして参加したことがきっかけです。最初は車いすテニスに関わりましたが、福岡では障がいのある方のバドミントンも比較的盛んで、色々なご縁があって、障がい者バドミントンの大会でトレーナーブースを開いてくれないかとお声掛けいただいき、障がい者バドミントンに関わるようになりました。その活動もあり、発足したばかりの日本障がい者バドミントン連盟から声をかけてもらい、2015年にイギリスで開催された世界選手権からトレーナーとして本格的に携わるようになりました。
 自分自身、バドミントンのプレー経験はありませんが、たまたま遊びで友人とバドミントンをしていた時に肩を脱臼し、それから肩に関して詳しく勉強するようになったり、病院勤務の時に理学療法士としてメディカルチェックに関わるようになった時、初めて担当したのが大学のバドミントン部であったりと、振り返ってみるとバドミントンは色々ときっかけや縁をくれたスポーツかなと思います。
 今はコロナ禍で活動に制限はありますが、ガイドラインに則り活動ができるよう医事部として活動をしています。ガイドラインについては、その時々の状況や新しい情報を基に、医事部が主体となり、これまで数回の更新を行なっています。
 現在、日本障がい者バドミントン連盟には私を含めトレーナーが4人いるので、大会や合宿には毎回私が帯同するのではなく、そのうちの1人もしくは2人が帯同しています。合宿は2020年7月から、大会は2021年3月から再開になっていて、今は4名のトレーナーで担当を決め帯同をしています。大会中は、試合前にテーピングをしたり、試合中選手がケガをした場合に対応を行ったり、試合後に選手の身体のケアを行ったりしています。
 また、トレーナー業務だけでなく、メディカル業務としてドーピング検査やクラス分け、さらにはコロナ対応にも関わっています。連盟ができた頃は、トレーナーは私だけだったので一人で色々なことを行っていましたが、今は、例えばクラス分けで言えば、国際クラシファイヤーの資格を持つスタッフも揃うなど、様々な面で対応が充実してきています。
 パラバドミントンでは、車いすの選手や、下肢や上肢障がいの選手、低身長の選手など、様々な障がいの選手と関わっていくため、それぞれの障がいに合わせて、その都度関わり方をよく考えて対応する必要があります。考えなければならないこと、やらなくてはいけないことがたくさんあって大変な部分はありますが、色々な方々と関わっていけるため、パラバドミントンの活動により充実した日々を過ごしています。


(写真 ©️2021一般社団法人日本障がい者バドミントン連盟)

パラバドミントンの魅力を教えてください。

 パラバドミントンは、東京2020パラリンピックから正式競技となりました。上肢や下肢に障がいがある選手たちの中には、義足の選手がいたり、切断の選手がいたり、麻痺のある選手がいたりします。低身長や車いすの選手もいます。また、東京2020パラリンピックの種目にはありませんが、知的障がいの方や聴覚障がいの方も競技を行っています。東京2020パラリンピックでは、肢体不自由の選手が対象となっていますが、パラバドミントンを観てもらうことで、パラリンピックに関わる肢体不自由の障がい・種目がほとんど分かるのではないかと思うほど、本当に幅広い、多様性のある競技だと思います。
 パラバドミントンのルールは基本的に健常のバドミントンと同じです。健常のバドミントンとの大きな違いは、車いすや下肢障がいの障がいの重いクラス(SL3)はシングルスの場合、通常のコートの半面を利用することです。下肢障がいの障がいの軽いクラス(SL4)や上肢障がい(SU5)、低身長クラス(SH6)は使用するコートは健常のバドミントンのサイズと同じになり、健常に勝るとも劣らないスピード感のある試合が見られます。さらに低身長のクラスでは、選手がコート内を縦横無尽に走り回り、ギリギリのところで飛びついてシャトルを打ち返す姿は、初めて観た人でも大変な驚きがあるのではないかと思います。
 一方車いすのクラスは、半面のコートのため、前後の動きが多くなりますが、その中で、巧みなチェアワークで、スピード感ある駆け引きを繰り広げていたり、床と平行になるくらい後ろに身体を反らしてシャトルを打ち返したり、さらにそこから車いすを移動させて、前に倒れながら打ち返したりと、「どうしたらあんな動きができるのか」「よく身体が壊れないな」とその凄さに衝撃を受けます。車いすは、後ろに転ばないように作られていますが、自分が実際に車いすに乗って同じことができるかと言ったら、とても怖くてできません。それを選手は当たり前のように行います。このダイナミックな動きもパラバドミントンの魅力の一つかと思います。
 また、こうしたテクニックや駆け引き、ダイナミックな動きだけでなく、選手のタフさにも注目してほしいです。上位者の力が拮抗している選手同士の試合になると、ラリーが長くなり、時には1時間を超える試合もあります。車いすだったり、脚に障がいがあったりする中で、長時間の試合を繰り広げる選手に驚くこともあります。立位のクラスでは、そのような長いラリーからジャンピングスマッシュが繰り出されるなど緩急のある試合展開も魅力かと思います。下肢障がいのクラスでは、その緩急のある試合展開やダイナミックな動きを実現している義足にも注目して欲しいと思います。
 ただ、そういった長時間の試合やきつい体勢から打ち返すことは、当然身体にも負担がかかるので、そこは選手の要望をよく聞いてケアするようにしています。




(写真 ©️2021一般社団法人日本障がい者バドミントン連盟)

選手との思い出のエピソードをお聞かせください。

 どの大会、どの試合においても、選手たちの必死に戦っている姿を見て感動することがたくさんあります。本当に一つひとつが大切な思い出になっていて、個人的にどれか一つを選ぶことは難しいです。
 大会に帯同する際は、もちろん試合内容や勝ち負けも気になりますが、やはり一番は、選手がケガすることなく無事に終えてほしいということです。いつもそう祈りながら試合を見ています。
 最近は少なくなりましたが、試合が朝9時から始まり、夜中12時過ぎに終わることもあります。選手の身体のケアはその後になるので、選手もケア中に眠くなることもありますが、そのような状況でも自分に身体のケアを任せてくれているんだと嬉しく思うこともあります。次の日の試合でまたベストパフォーマンスが発揮できるようにと気持ちを込めてケアをしています。
 国際大会では会場内でケアができる場所が確保できないこともあります。そのような時は、宿舎でケアを行うこともあります。宿舎で選手のケアをしている時に、別の選手が会場内でケガをしたという連絡が入り、慌ててトレーナーバッグを持って飛んで行ったことがあります。その場の状況に迅速に対応することがトレーナーには必要なので、常に緊張感を持って臨んでいます。アクシデントが起こらないことが一番だと思いながら、いつも試合を見守っています。
 自分が帯同していない大会でも別の帯同トレーナーから情報が入ってきて、必要に応じてサポートを行いますが、とにかくケガの連絡がないことを一番に願っています。

(写真 ©️2021一般社団法人日本障がい者バドミントン連盟)

パラリンピック・パラスポーツへの思いをお聞かせください。

 東京大会が決まり、テレビでもパラリンピックの選手が取り上げられるなど、パラスポーツの情報を見聞きする機会が以前より格段に増えています。これは大変喜ばしいことです。
 今、例えばボッチャなどは、企業等でもレクリエーションとして取り入れられたり、社会に広まっているとよく聞きますが、とてもいいことだと思います。先程も述べたとおり、パラバドミントンは健常のバドミントンとルールは一緒ですが、クラスによっては使用するコートが半面になっていたり、パラスポーツのルールは、障がいのある方でもプレーが可能なように工夫がされています。健常者の方も車いすに乗るなどして、一緒にプレーをすることが可能です。パラリンピックを機に多くの方に興味を持ってもらい、健常者の方も、車いすに乗ってバドミントンをする方が増えればいいなと思います。パラバドミントンは、本当に様々な障がいがある選手がいて、多様性を感じられる競技だと思うので、できるだけ多くの方に試合を観ていただきたいです。そうしたことを通じて、ダイバーシティの実現などのレガシーにつながればと思っています。
 そのほか、以前よりはだいぶ少なくなっていると聞きますが、体育館によっては、床に傷が付くという理由で車いすの使用を制限しているところもあるようです。今後、パラリンピックを機に、こうした体育館の利用環境も改善されていくことを期待しています。
 また、連盟では現在、若手選手の発掘・育成を目的としたパラバドアカデミー(https://jpbf.jp/wp-content/uploads/2020/12/%E8%82%B2%E6%88%90%E4%BA%8B%E6%A5%AD%EF%BC%88%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%90%E3%83%89%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%87%E3%83%9F%E3%83%BC%EF%BC%89%E3%81%AE%E9%96%8B%E5%A7%8B%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf  )を開催しています。トレーナーの立場で何ができるのか自分でもまだ分かりませんが、今後、そういった選手の育成等にも携わっていければと思っています。体験会などを通じてパラバドミントンに触れていただく機会が増えることで、障がいがある方が始めてみたいスポーツの一つにパラバドミントンが入るようになれば嬉しいです。
 私は福岡を拠点としており、障がい者スポーツトレーナー部会を立ち上げました。コロナ禍ということもあり、2020年はほとんど活動ができませんでしたが、今後は、障がい者スポーツトレーナーとして、福岡、九州でもパラバドミントンをはじめとするパラスポーツを広めていく仕事ができればと思っています。そして、そういった活動が全国に広まっていけばいいなと思います。
 個人的なことになりますが、私には、5歳になる娘がおり、昨年まではオリンピック・パラリンピックのことはよく分かっていませんでした。一度練習を見せたことがありますが、その時の迫力などで大変興味を持ち、今ではオリンピック・パラリンピックの話をしたり、ソメイティやミライトワの絵を描いたり、「がんばれ日本!」と毎日言っています。また、私の仕事への理解もできるようになってきました。一度見ると興味を持つことができるパラスポーツ、パラバドミントンを今回の東京パラリンピックでは一人でも多くの方に観ていただき、日本全体で「がんばれ日本!」と応援できれば良いなと思っています。
 日本全国で障がいがある方のスポーツ参加が増えたり、車いすなどを使って健常者の方が一緒にプレーをしたり、障がいのある方々への理解が広まっていけばいいなと思いますし、この仕事を通して関わることができていることを大変嬉しく感じています。

(令和3年3月 東京都オリンピック・パラリンピック準備局パラリンピック部調整課インタビュー)