パラスポーツ・パラアスリートの支え手の方々からのメッセージ ~パラ馬術~


 パラ馬術
トレーナーをされている増元拓巳(ますもとたくみ)さん支え手としての役割、パラスポーツやパラアスリートの魅力などをお伺いしました。パラ馬術を支える方、競技、選手を知って、みんなで応援しましょう。

★パラ馬術
増元拓巳(ますもとたくみ) さん
トレーナー

<プロフィール>
ニューオリンピッククラブ宝馬乗馬学校出身。現在エバーグリーンホースガーデン所属。馬場馬術選手兼トレーナー
第71回全日本馬場馬術大会2019PartⅠ Sクラス決勝第1位、第72回全日本馬場馬術大会2020PartⅠ セントジョージクラス決勝第2位
競技年齢が高い種目にも関わらず、現在36歳と若手ながら健常者馬場馬術のトップライダーとして数々の競技会で活躍
奥様の増元真以子さんも馬場馬術のトップライダーとして活躍


 以下「※」の補足は、一般社団法人日本障がい者乗馬協会

パラ馬術のトレーナーに携わることになったきっかけを教えてください。

 「馬」との関わりで言うと、元々は競馬の仕事に就きたくて、18歳の時にその関係の専門学校に入学しました。その後は、馬場馬術の選手として活動することになり今に至っていますが、パラ馬術に関わることになったのは、パラ馬術の選手である石井直美さん(グレードⅤ)に出会ったのがきっかけです。
 石井選手が、2020年10月頃から、ここ(増元さんの勤務先「エバーグリーンホースガーデン」)で繫養(けいよう)している馬「デフュアスティネルス号」にリースという形で乗ることになり、ちょうどその馬を自分が管理していたので、それがきっかけで石井選手のトレーナーになりました。馬術の場合、選手が良い状態で騎乗できるように、その管理担当が調整を行い、その選手を指導することが多いです。
 石井選手は右上腕欠損という障がいがあるためどのような馬でも良いというわけにはいかないのですが、この馬は性格が良くてお利口で、一昨年(2018年)には自分が全日本大会で勝っている馬でもあります。石井選手は、7年ほど前にもここにメンバーとして乗りに来ていましたが、いったんここを離れ、それからこの馬に出会ってまた戻ってきて、先日(2020年11月)の第4回全日本パラ馬術大会もこの馬で出場しました。
 普段は、だいたい週3~4回のペースで石井選手へ指導をしています。レッスンの時には、自分が先に馬に乗って調整した上で、手綱をバータイプのもの(石井選手は右上腕欠損の障がいがあるためバーを付けて操作)に替え、順に指導しています。石井選手がこの馬で大会に出場する時には、一緒に行くことになります。今は、基本的には石井選手のトレーナーとして指導を行っていますが、他にも自分が管理する馬に乗りたいという選手がいれば、指導する形になるかと思います。
 
※パラ馬術の選手は障がいがあるため、競技をすること自体難しいですが、その分、トレーナーも選手に指導することが難しく、選手が自由自在に馬を動かせるようになるには、トレーナーとしても相応の技量が必要になります。






(2枚目・3枚目写真 @c3.photo)

パラ馬術の魅力を教えてください。

  以前からパラ馬術があることは知っていましたが、実際に競技を見たのは、石井選手のトレーナーになってから、先日の全日本パラ馬術大会が初めてでした。実際に競技を見るまでは、同じ採点競技ながら点数の付け方なども健常の馬術とはだいぶ違うのかなと思っていましたが、競技で求められることや採点の基準など、思っていたほど変わらなかったので、これはなかなか難しいなと感じました。障がいの程度に応じたグレード分けはありますが、同じグレードでも選手個人個人によって障がいが異なり、例えば石井選手の場合、右上腕欠損という障がいがあるため、片手のみで馬を操作しなければならず、その分、高度な技術が求められます。
 そもそも馬をコントロールするというのは健常の人でも難しいのですが、障がいのある選手があれだけ馬をコントロールできるというところは大きな魅力だと思います。石井選手のグレードでは、馬を横に歩かせたりする技が入ってきますが、そもそも馬を横に歩かせること自体が難しいことです。こういった馬のコントロールや、馬の動きの綺麗さなどにも注目してほしいです。
(写真提供 @JRAD)
 
※パラ馬術の審査
 健常者の馬場馬術競技と基本的に同じ観点(正確さ、活気の良さ、美しさなど)で審査がなされます。健常者の馬場馬術競技の演技内容は要求される技のレベルが高いですが、パラ馬術の場合、障がいのある選手が馬をコントロールすること自体難しいため、経路と呼ばれる辿らなければならない決められたルート自体が難しい内容となっており、きちんと回る、いわばコントロールの技術が求められる傾向にあります。例えば、馬を右に向けるときは、普通右の手で合図を送りますが、右腕に障がいのある選手はそれを左手で行う必要があり、その際に上手くコントロールできているかどうかが評価される傾向となっています。
 また、美しさも評価ポイントですが、人がやらせているのではなく馬が自ら動いている、例えば、馬が円を描くときに、人が引っ張っているのではなく馬が自然と回っているように見えることが美しさになります。増元さんのようなトップライダーは、本人はあたかも何もしていないように見えますし、馬が活き活き、自ら動いている感があり、そうすると力みがなく、よりエレガントに見えます。そういうところが人馬一体と言われる所以です。

選手との思い出のエピソードを教えてください。

 石井選手のトレーナーになってから、その練習の熱心さには感服しています。石井選手は、練習の時は毎回のように自分が乗っている様子を動画に撮って勉強していますし、馬の手入れなど自分でできることはすべて自分で行っています。馬と一緒にいる時間をできるだけ長く取って、コミュニケーションを図っているのが印象的です。

※馬術はサーフィンと一緒で、馬は右に比重がかかると右に、左に比重がかかると左に進むため、左右のバランスが大事で、石井選手は、左右の重さを均等に保つために、練習する時は義手をつけています。
(写真提供 @JRAD)

パラリンピック・パラスポーツへの思いをお聞かせください。

 馬術自体がマイナーな競技で、大会もあまり多くないので、オリンピックやパラリンピックで多くの方に観てもらって、関心を持ってもらい、乗馬人口が増えていくといいなと思います。障害物を越えて競う障害馬術は観ていて分かりやすいですが、パラリンピックで行う馬場馬術というのは、なかなか何をしているのか分かりづらく難しい部分があります。そうした中で、パラリンピックの馬術が日本で行われ、そして発信力のある大都市である東京の馬事公苑(世田谷区)で行われるというのは、普及に向けた大きなチャンスだと思っています。
 そして、オリパラ大会後も東京の馬事公苑でパラ馬術の大会が開かれるようになれば、お客さんも来やすくなると思います。パラ馬術は専用の施設がないので、健常の馬術と一緒になってPRしていければと思っています。

(令和2年12月 東京都オリンピック・パラリンピック準備局パラリンピック部調整課インタビュー)