パラスポーツ・パラアスリートの支え手の方々からのメッセージ ~ゴールボール~


 ゴールボール映像分析スタッフをされている德永梨沙(とくながりさ)さん支え手としての役割、パラスポーツやパラアスリートの魅力などをお伺いしました。
 ゴールボールを支える方、競技、選手を知って、みんなで応援しましょう。

★ゴールボール
 德永梨沙(とくながりさ)さん
 (日本ゴールボール協会強化委員会映像分析スタッフ)

(写真提供 日本ゴールボール協会)

<プロフィール>

現在22歳。高校1年生の時からボランティアスタッフとしてゴールボールに携わる。自ら競技を体験し、晴眼者も出場できる国内大会(日本選手権)では3位を獲得(2016年、2018年)。2018年以降は正式に強化スタッフとして活動し、大学と競技活動を両立させながら代表合宿・海外遠征に帯同。2021年度春からは社会人となり、変わらず両立をさせながらの活動を目指す

ゴールボールに携わることになったきっかけ、活動内容について教えてください。

 高校の時の担任が、たまたま当時、ゴールボール男子日本代表チームのヘッドコーチをされていた池田貴先生(元日本ゴールボール協会理事・男子選手強化指導部長)という方だったんです。ある時、その先生に「一緒にやってみないか」と誘われ、2014年のジャパンパラ競技大会を見学に行ったのが、ゴールボールに関わるきっかけです。その時に見学して初めてゴールボールを知りました。それまで障がいのある方と関わる機会はほとんど無かったので、最初は「目が見えない中でどのように競技を行うのだろう」と思っていましたが、実際に競技を見て、「視覚を使わずに、聴覚と身体だけでこんなすごいことができるのか」と衝撃を受け、興味が湧きました。
 そこから、国内合宿のボランティアスタッフとして携わるようになり、選手と接していく中で、視覚に障がいがあるけれど得意なことをいかしながら一生懸命に競技に取り組んでいる姿を見て、どんどんゴールボールにのめり込んでいきました。私自身も、高校の授業で実際にゴールボールをプレーしてみたらすごく楽しくて、国内大会では晴眼者も出場できるということだったので、高校2年生の時(2015年)からクラブチームに所属し、選手としても活動していました。その後、大学2年の2018年までは選手活動を続けていましたが、それ以降は、本格的に日本ゴールボール協会の強化スタッフとして活動するようになり、選手選考などにも関わるようになったため、そこに専念することとし、今は選手としての活動は行っていません。
 スタッフとしては一番年下になりますが、現在の役割として、試合や練習などの様子をビデオ撮影し、情報を分析した上で、選手に「これはこうだったよ」「ここはこうした方が良い」などフィードバックを行っています。選手たちは視覚に障がいがあるため、実際に私が見た情報を正確に伝えられるように心掛けています。
 また、国内大会や海外遠征、合宿にはほぼ帯同しています。大会では、情報分析班として、海外チームや選手の特性や動向などを分析し、必要な情報を選手やヘッドコーチに伝える役割を担っています。私自身の選手としての経験もいかし、「私だったらこうするよ」「この映像ではこうだから、もっとこうした方がいいよ」などといったアドバイスも行っています。
 私は元々、文化系でスポーツ経験もなかったので、高校の時の池田先生との出会いがなければ、おそらくパラスポーツに興味は持っていなかったですし、実際に触れる機会もなかったと思います。本当に偶然が重なって、今の役割があるのかなと感じています。
 私自身まだまだ足りない部分がたくさんあります。全盲の選手の場合は、イメージを持ちながら聞いてもらうということが難しいため、時々どうしたらいいか分からなくなります。言葉だけで全部を伝えるのは本当に大変です。そこで、私自身が実際に動きを真似して、選手に私の身体に触れてもらってイメージしてもらうなど、日々工夫しながら取り組んでいます。



写真提供 日本ゴールボール協会

ゴールボールの魅力を教えてください。

 視覚を使わずに音だけで勝負しているところが一番の魅力だと思います。聴覚だけで、10m以上先の相手の行動を感じながら、3人の選手が阿吽の呼吸でプレーします。ゴールボールは「静寂の中の格闘技」と言われたりしますが、まさにそのとおりで、どこからボールが飛んでくるか分からない中で、耳を澄ませて相手の動きやボールの位置を捉えるところは本当にすごいです。
 ゴールボールでは駆け引きが重要になってきますが、ルールをよく知ることで、これがダメでこれが良くて、こうすれば相手を騙せるなどの戦略も立てられます。特に、日本の選手は海外の選手に比べると身体が小さいので、駆け引きで勝ってきたと言ってもいいくらいです。例えば、ボールを持っている選手がボールを投げるために動くと、ボールの鈴の音と足音とで何となく位置が分かってしまうのですが、他の選手が別の位置から足音を鳴らすだけで、相手方を錯乱させることができます。まさに音での騙し合いで、観ていてすごく面白いです。
 ゴールボールは実際に体験してみると、一層選手たちの凄さが分かります。競技をするには、アイシェードという目隠しを付けるのですが、それを付けただけでも床が揺れているように思えて、その状態で飛んでくるボールを受けるので、私も最初は本当に怖かったです。また、自分の思っているイメージではボールはもっと遠くにあるはずなのに、すでに1m手前にボールが来ていて自分の身体にぶつかってしまうというようなこともあって、慣れるまでは音の距離感を測るのにとても苦労しました。だんだん慣れてくると、ボールの鈴の音や空気感で、ボールの軌道を頭の中でイメージし、線としてボールの位置を捉えられるようになります。ただ、予想と違ったバウンドがあったりすると、ボールが顔に当たったりすることもあって、やはりボールの軌道を読むというのはそう簡単なことではありません。ベテランの選手だと、ボールが何m先にあるのかを点で捉えて分かるようになります。その凄さをぜひ感じていただきたいです。




(写真提供 日本ゴールボール協会

選手との思い出のエピソードをお聞かせください。

 ヘッドコーチからの指示が3人の選手全員にうまく伝わっていなかった時などは、選手同士で接触してしまうようなこともあります。そのような時でも、浦田理恵選手(北京2008パラリンピック出場。ロンドン2012パラリンピックで金メダル獲得。リオデジャネイロ2016パラリンピック5位)は、的確にヘッドコーチの指示を汲み取って、両ウイングの選手に指示をして動いているのがすごいなと思います。浦田選手は、私たちの考えも理解しつつ、「自分たちはこうしていきたい」ということを伝えてくれたり、相手のイメージすることを素早く察知して、周りの人に声をかけて共有したり、チームの中心的存在になっています。それがゲームでも発揮されているところが素晴らしいです。
 世界一のチームになるためには、スタッフも全員が、自分たちがもっている力を最大限発揮しなければならないと思っています。私も映像スタッフとして、常にメモを取ってその時々の状況を踏まえながら、選手と一緒に映像を振り返り、客観的な情報をきちんと伝えられるよう努力しています。本当のことは伝えつつ、モチベーションが下がらないよう、過剰には言わないようにし、映像でモチベーションが上げられるようにもしています。
 スタッフとしての活動を通して、最初の頃は、視覚に障がいがあるというだけで気を遣っていた部分があって、「これをしてあげなくちゃ」という思いであたふたしながらサポートしていたのですが、選手たちと長く一緒にいて分かったことは、目が見えない中でも、見えていない部分は補助しあいながら自分でできることは自分一人でやっているということです。これは、実際に選手と関わっていなかったら分からなかったことで、私自身、視覚障がいの方に対する考え方を改めるきっかけとなりました。
 街で視覚障がいのある方を見かけた時も、困っていそうだなと思ったら、一言「大丈夫ですか。何か手伝いましょうか」と声を掛けますが、「大丈夫です」と返答されたら、それ以上は特に何もしなくなりました。選手たちも、相手が声を掛けてくれた時は、気持ちだけもらって、自分でできることは自分自身でやるようにしていると話しています。




(写真提供 日本ゴールボール協会

パラリンピック・パラスポーツへの思いをお聞かせください。

 東京パラリンピックに関しては、これまで一緒に頑張ってやってきた選手たちに大会でその成果を最大限に発揮してほしいと思っています。私自身も、そのためのサポートをしっかりとやって、選手と一緒に金メダルの奪還を目指して頑張ります。
 また、パラリンピック自体、まだまだそれほど知られていないと感じています。ロンドン大会では、ゴールボール女子日本代表が金メダルを獲り、報道等で少しは知られたかと思いますが、私自身も、池田先生に出会わなければ、パラリンピックやパラスポーツに触れる機会はほとんどなかったと思います。パラリンピックで金メダルを獲得したり表彰台に立つことで、より多くの方々に知ってもらえると思うので頑張りたいと思います。
 実際の試合を生で観てもらうのが一番ですが、映像でも見て分かる部分はすごく多いと思いますので、そういった環境を映像スタッフとして整えていければと思っています。実際に強化合宿の様子をYouTubeで流すなど、映像配信には力を入れてきている状況です。
 私は、この春から社会人になりますが、引き続きゴールボールに携わっていきたいと思っています。今は、日本パラリンピック委員会のプロフェッショナルの方にご指導いただきながら、映像技術を駆使して選手に練習や試合の場面等をフィードバックできるようになってきていますが、そこを自分自身で、もっと早く広く展開できるようスキルを磨いていくことが目標です。また現在、海外遠征はなかなかできませんが、海外遠征のような緊張した場面で活動することは、選手同様にスタッフにとってもとても大きな経験となるので、そういった経験もたくさん積んで、選手たちと同じようにもっとプロフェッショナルな役割を果たしていければと思います。
 今はコロナの影響でなかなか進んでいませんが、次世代を担う若手の選手の発掘もとても重要です。最近は、盲学校などでもゴールボールを授業で取り上げてくれる機会が増えてきています。日本ゴールボール協会としても、これまで、小学校、中学校、高校などに出向いて講演会を開くなど、積極的に競技を広めていく活動をしてきましたし、今後も、こうした若い人たちに、一緒に競技をできる環境を整えていければと考えているところです。選手が所属している企業の社員の人たちが集まって、体験会や、チームを組んで大会をやるような機会も生まれてきており、すごく嬉しいですし、そういった活動がどんどん広がっていくよう私たちも尽力していきたいと思っています。


(令和3年3月 東京都オリンピック・パラリンピック準備局パラリンピック部調整課インタビュー)