パラスポーツ・パラアスリートの支え手の方々からのメッセージ ~パラ射撃~


 パラ射撃コーチをされている猪坂桂(いさかかつら)さん支え手としての役割、パラスポーツやパラアスリートの魅力などをお伺いしました。
 パラ射撃を支える方、競技、選手を知って、みんなで応援しましょう。

★パラ射撃
 猪坂桂(いさかかつら)さん
 (コーチ)

(写真提供 日本障害者スポーツ射撃連盟)

<プロフィール>

1971年生まれ、東京都出身。16歳で射撃を始める。
2017年より日本障害者スポーツ射撃連盟の手伝いを始め、2019年から同連盟のコーチになる。
同年、World Shooting Para Sport のコーチライセンスを取得
一男二女の母

パラ射撃に携わることになったきっかけ、活動内容について教えてください。

 私自身、高校生の時からずっと射撃をやっていました。高校では、最初は弓道部に入りたいと思っていましたが、事前体験の際、人数が多く行列ができていたので、どうしようかと思っていたら、たまたま隣の射撃部が空いていたので見学することにしたんです。そしたら、先輩も優しくて面白くて、実は自分はあまり運動神経が良くなかったので、射撃ならあまり体を動かさなくても大丈夫そうだと思い、軽い気持ちで射撃部に入ることにしました(笑)。
 高校では3年間、日本独特のビームライフルという競技をやっていましたが、3年生の引退前の関東大会で9位に終わり、悔しくてこのままでは終われないと思い、その後、大学でも、また社会人となっても射撃を続けていました。多分楽しかったので、やめずに続けられたのだと思います。東京都内にある競技射撃の専門店で何年間か働いていた時期もあります。実は私の主人も射撃をやっており、射撃で人生が決まったようなものです。
 パラ射撃との関わりですが、現・日本障害者スポーツ射撃連盟の田中事務局長から、人手が足りないからパラ射撃を手伝ってくれないかとオファーを受け、正直パラ射撃のことは全然分からなかったのですが、たまたま島根であった試合を兼ねた合宿に同行したのがきっかけです。田中さんとは、学生時代、広島で行われたアジア大会にお手伝いで参加していた時に、知り合いの選手から「面白い人がいるからぜひ会わせたい」と紹介されて以降、交流があったんです。
 最初は、2017年頃になりますが、お手伝い、アシスタント的なことをやっていました。連盟も人手が手薄だったため、海外遠征の際のライフルの輸出入の対応や荷物運びなど色々なことに携わっていました。それから少し経って強化合宿にも参加し、2017年11月にタイで行われたパラ射撃のワールドカップにスタッフとして帯同したのが、本格的な活動としての最初の機会でした。それ以降、ワールドカップや世界選手権など、海外遠征には帯同しています。私は帰国子女で英語が得意ということもあり、海外での様々なやり取りなども行っています。
 射撃のルールとパラ射撃のルールは基本的には一緒だと教えられていたのですが、実際には独特のルールもあり、医療や障がいの知識もなかったので、最初は戸惑いました。地元の福井にある小中学生向けのクラブでお手伝いをしていたときも、健常者に教えるときに自分がやってきた感覚が全く通用せず、例えば、義手の選手であれば、義手の上に銃を乗せている感覚が自分には分からないので想像して教えるしかなく、そういったことから勉強でした。
 パラ射撃では障がいに応じたクラス分けがあり、まず大きなところでは、自分で銃を持てるかどうかで決まります。SH1というクラスでは、自分で銃を持って健常者と同じように撃つ人もいますし、車いすの選手の場合だと支えなしに自分で銃を構えます。SH2というクラスでは、自分で銃を持ち続けるのが難しい選手が補助のスタンドを使用します。撃つ姿勢も、立って撃つ「立射」、膝を立てて撃つ「膝射(しっしゃ)」、うつ伏せで撃つ「伏射」に分かれています。最初は、そういったクラス分けからしてどういう基準なのか知らなかったり、車いすの選手を後ろから見て何の種目(姿勢)なのか分からなかったり、種目の呼び方も専門用語で呼ばれていて、こっそりメモを見たりと、周りの方々に色々聞きながら、パラ射撃のルールを一から勉強していきました。
 今は福井に住んでいて、コロナ禍ということもあり、なかなか東京に行く機会はないのですが、西が丘にあるナショナルトレーニングセンターでの強化合宿に参加したり、三重県で強化練習をしたりしています。
 今でも、選手に教えるというより選手から教えられることが多いです。ナショナルチームの選手は日本各地に散らばっていて、地元に指導してくれる人がいる選手もいますし、ベテラン選手も多いので、ある程度積み上げたノウハウがあるのですが、その中でも悩んでいる時にはアドバイスを行ったりしています。昨年からは、コロナの関係で海外遠征が中止や延期になって悩んでいる選手もいるので、相談に乗ることも多いです。



写真提供 日本障害者スポーツ射撃連盟

パラ射撃の魅力を教えてください。

 射撃は、健常者でも障がいのある方でも同じように競技ができるところが魅力だと思います。突き詰めると、これはどんな競技にも言えることかもしれませんが、良くも悪くも自分次第で、結果が決まります。特に射撃は、練習中も試合中も、究極まで自分を追い詰め、ひたすら真ん中だけを撃ち抜いていく競技で、高い精神力、集中力が求められます。
 選手たちは同時に並んで撃って、すぐ結果が表示されます。試合中ずっと音楽が流れている時もあり、またギャラリーの方々がいると、先に撃つ選手がいい点を取った時に「わぁー」と歓声が沸くこともあって、選手には、周りの雑音に惑わされない精神力、集中力が必要になってきます。先に撃った選手に対する歓声がまだ残る中で撃って、先に撃った選手を超える点数を取ることができた時は本当にすごいなと思います。
 集中力を鍛える方法としては色々ありますが、選手の個々の性格にもよるかと思います。全然緊張しない選手もいれば、試合中に隣に審判が歩いてきて少し覗かれただけでもドキドキしてしまう選手もいます。メンタル面は、試合の時だけ強化されるわけではないので、日頃からトレーニングにポジティブシンキングを取り入れたり、合宿中にあえて横で騒いで、その中で練習してみたり、また、点数を気にしないよう隠して練習してみたりと、色々工夫しながら取り組んでいます。
 また、海外では、両腕に義手をつけている選手がいるのですが、義手の先がフックのようになっていて、そこで引き金を引くというのが衝撃的でした。他にも、兵役で派遣されている際に片脚の膝から下をなくし義足となった方が、射撃を始めたというケースなど、とにかく色々な選手がいます。選手の生い立ち、バックグラウンドを知ってさらにびっくりというようなこともよくあります。
 日本では、パラスポーツの中でも射撃は、銃刀法の関係で銃を所有する手続きなどが本当に大変で、銃を自分で持ち運びできるのが大前提です。健常者の方でも、面倒で途中でやめてしまう人もいるくらいなのですが、その中で、障がいがある方が、射撃を選んで続けていることは本当にすごいと思います。だからこそ私も応援して、ぜひ上を目指して頑張ってほしいなと思っています。
 ライフルなどの銃器も進化してきています。選手は、それぞれの障がいに合ったものを選びますが、長く使う人もいれば、定期的に買い替える人もいます。いずれにしても銃の手入れは重要です。ゆくゆくは、こうした銃の手入れを行うメカニックのようなスタッフも揃って、F1レースのように射撃のチームを組んで選手をバックアップできる体制を作りたいと思っています。


 
写真提供 日本障害者スポーツ射撃連盟

選手との思い出のエピソードをお聞かせください。

 2019年にシドニーで行われた世界選手権で、水田光夏(みずたみか)選手(東京2020パラリンピック出場内定・10mエアライフル伏射)が自力で東京パラリンピックの出場枠を獲得した時は、一番印象に残っています。開催国枠として男女1名ずつの割り当てはあったのですが、水田選手はあくまで自力で出場を勝ち取ったんです。試合が終わって、最初はギリギリどうかなと思っていたのですが、すぐ公式発表があり水田選手の名前が出てきました。本人も最初はダメかなと言っていたのですが、結果が分かった瞬間に涙ぐんでいるのを見て、そこに立ち会えたことにすごく感動しました。
 また、アシスタントコーチとして、ワールドカップに帯同していた時のことです。射撃場に急なスロープがあったのですが、海外の車いすの選手は普通に昇っていたので、車いすの選手に向かって、あまり深く考えずに「できるできる」と言ってしまったんです。そしたら、その選手から「できないことはできない。障がいがある人の気持ちなんて分からないでしょう」と言われてしまいました。この言葉は心にグサッときました。一生懸命頑張って練習して、せっかく海外遠征に来たのに、試合前にスタッフの私が選手の気持ちを乱してしまい、本当に何も分かっていなかったのだなと自分自身がへこんでしまい、すごく反省しました。そこから、言葉の使い方に気を付け、一回考えてから発言するようになりましたし、障がいがある選手の気持ちをすべて理解することは難しいけれど、寄り添えるようになろうと思いました。選手も言葉にすることを不安に思うことがあると思いますので、そこはもっとお互いに話をして、深い部分から分かり合えたらいいなと思っています。
 自分が関わっている選手が試合に出ている時は、色々な思いで見ています。調子がいい時は「いいぞ、そのまま」となりますが、ちょっと崩れた時は「休憩を入れたほうがいいな」と思ったりします。また、風にも影響される競技なので、時には「今は引き金引いちゃダメ」などと心の中で叫びながら、自分自身ドキドキして見ています。プレー中、コーチは役員の許可をもらえば、選手のところに行ってアドバイスすることができますが、選手によっては自分で呼ぶ時以外は来てほしくないという人もいるので、アドバイスする場合は、タイミングをよく見計らうようにしています。

パラリンピック・パラスポーツへの思いをお聞かせください。

 まずは、パラ射撃という競技を知ってもらうことが一番の目標です。射撃はどちらかと言うとマイナー競技で、特にパラ射撃はあまり知られていません。健常の射撃の選手でも、パラリンピック競技にパラ射撃があることを知らない人もいるくらいです。まずは、もっと多くの方にパラ射撃を知ってほしいですし、特に射撃は実際にやってみないと面白さが分かりづらいので、ビームライフルなど誰でも体験できるもので楽しさを実感してもらうなど、普及活動に積極的に取り組んでいきたいと思います。
 また、国内ではパラ射撃の大会は多くなく、開催されたとしても会場(射撃場)の多くは、山の方のアクセスがあまり良くない場所にあるので、なかなか観に来てもらうということが難しい状況にあります。なので、このコロナ禍で広まってきているように、オンラインで動画の配信を行うことで、多くの方に競技の様子を観ていただきたいと思っています。今度の合宿の時も、その様子を撮影して動画でPRできればと考えており、こうした取組によって、パラ射撃の魅力を発信していきたいと思っています。
 ナショナルトレーニングセンターができたことによって、今はオリンピックとパラリンピックの選手が一緒に練習することができているので、お互いにとって良い刺激になっていると思います。オリとパラ選手のミックスチームで対抗戦など出来るようになれば嬉しいですね。
 私も声を掛けられなければ、パラスポーツの世界を知ることはなかったと思います。実際にパラスポーツに関わるようになって、病気や事故などで障がいがある選手たちが、「これができない」と嘆くのではなく、「こんなことができる」「こうすればできる」と前向きな姿勢で競技に取り組んでいるのを見て、私自身ものすごくパワーをもらえた気がしますし、それで自分も頑張れると思っています。一人でも多くの人たちにパラスポーツやパラアスリートを知ってもらいたいと思っています。



写真提供 日本障害者スポーツ射撃連盟

(令和3年2月 東京都オリンピック・パラリンピック準備局パラリンピック部調整課インタビュー)