パラスポーツ・パラアスリートの支え手の方々からのメッセージ ~5人制サッカー(ブラインドサッカー)~


 5人制サッカー(ブラインドサッカー)
ヘッドコーチ・ガイドをされている中川英治(なかがわえいじ)さん支え手としての役割、パラスポーツやパラアスリートの魅力などをお伺いしました。5人制サッカーを支える方、競技、選手を知って、みんなで応援しましょう。

★5人制サッカー(ブラインドサッカー)  
中川英治(なかがわえいじ)さん  
(ヘッドコー・ガイド)

(写真 @JBFA/H.Wanbe /IBSA ブラインドサッカーアジア選手権 2019)

<プロフィール>
1974年生まれ。
特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会所属。
スクールコーチ時代には、数々のJリーガーや日本代表選手たちを育成。2016年より5人制サッカー日本代表のコーチを務め、現在、クーバー・コーチング・サッカースクールのヘッドマスターとして指導者養成も行う。

コーチに携わることになったきっかけを教えてください。

 2015年のリオパラリンピックのアジア予選でブラインドサッカーの男子日本代表チームが敗退してしまい、監督が変わって、コーチの体制も変わるということで、そのときに今の高田監督からオファーいただいて代表チームに携わることになりました。それ以前は、直接ブラインドサッカーを指導するということはありませんでしたが、男子日本代表選手の加藤健人選手のパーソナルコーチを務めており、そこでの活動、実績が評価されてコーチに招かれたのだと思います。
 僕は現在、日本で150以上のサッカースクールを抱えるクーバー・コーチングというところでコーチを育成する仕事をしていますが、数年前、そのカリキュラムに障がい者サッカーを加えたときに、日本ブラインドサッカー協会にお願いをして講義をしてもらいました。そのときにデモンストレーターとして参加してくれたのが加藤選手で、彼から、ブラインドサッカー界にはなかなかサッカーを教えてくれる人がいないので、本格的にプロの指導者の方に教えてもらいたいと頼まれ、パーソナルコーチを引き受けることになったという経緯があります。

コーチとして日々どのような活動をされているかお聞かせください。

 試合分析や練習のプランニングなど、主に技術、戦術面での役割を担っています。試合の際には、ゴール裏から声を出して情報を伝える「ガイド」も担っています。
(写真 @JBFA/H.Wanbe / IBSA ブラインドサッカーアジア選手権 2019)

5人制サッカー(ブラインドサッカー)の魅力を教えてください。

 目が見えない中でサッカーをやることは奇跡的です。僕が目をつぶって外に出て走り回れるかというと怖くて難しい、本当に奇跡の競技だと思います。
 ブラインドサッカーは、サイドラインにボールがアウトしないようにフェンスが立っていて、そのフェンス際のボールを奪い合う攻防というのは、間近で見るともの凄い迫力があります。健常者でもなかなかあそこで強くいけないんじゃないかというくらいの激しいコンタクトがあって、まるで格闘技のような側面があります。
 また、選手たちは情報を得る視覚がないので、音を聞いて情報を収集しています。選手たちはボールの音のほか、ゴールキーパーの声、監督であるセンターガイドの声、ゴール裏にいるガイドの声を頼りにプレーします。僕らが彼らの目になるわけではありませんが、彼らの情報収集の手助けをします。情報の質も、量も、タイミングもすごく大事で、フィールドプレーヤー4人、ゴールキーパー、ガイド、そして監督の7人が、共通の言語、共通のコードを使う、究極のコミュニケーションゲームと言えます。

(写真 @JBFA/H.Wanbe / IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ 2019)

選手との思い出のエピソードをお聞かせください。

 代表選手たちと関わるようになり、初めて彼らと練習をした時、技術レベルや戦術の理解度は度外視で、そのひたむきさとか、もっとうまくなりたい、もっと教えてほしい、という向上意欲に感銘を受けました。サッカーをずっとやっていくと、サッカーが好きだけれどいつしか原点の気持ちを忘れがちになるときがあります。でも、ブラインドサッカーの選手たちは、まるで小学生のように、常にひたむきで、向上心があり、常にうまくなりたいという気持ちを持っています。僕にとってここは、自分がサッカーをやってきた原点とか自分のサッカーに立ち返れる場所でした。この選手たちだったら2020年の東京パラリンピックで可能性があるのではないかと思えました。
 凄いのはブラインドサッカーの男子日本代表チームは一度もパラリンピックに出たことがありません。これがホームの東京で、パラリンピックに初出場してメダルを取ろうというのだから、何とも面白いプロジェクトではないですか。選手たちが、これができたら次のステップはこれだとか、もっとこんなことできるのではないかとか、目が見えないからできないという壁を壊して、みんなでできるのではないかと思っています。
 また、ゴール裏でガイドをやっているので、シュートが入る瞬間は忘れられません。味方選手がシュートを打つ前に、ゴールからの距離とかディフェンダーが何人いるとかインフォメーションを与えるんです。面白いのがシュートのタイミングで、「今打て」と僕が言って、大体そこで裏切ってくるときにゴールが決まるんです。なぜなら、僕の前にいる相手のゴールキーパーも晴眼者で、僕と視点や景色が一緒だから。嬉しさの反面もどかしい。選手には「僕の言うタイミングとずらして蹴ると入るよ」と言っています(笑)。
(写真 @JBFA/H.Wanbe / IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ 2019)

パラリンピック・パラスポーツに対する思いをお聞かせください。

 誰でもスポーツをできる機会は平等にあるべきですが、障害を持っている方は、必ずしも自分のできるスポーツに触れ合えていないと思います。そういった意味では2020年の東京パラリンピックは一つの契機、大きな機会で、この機会に、多くの方に、ブラインドサッカーをはじめ色んな競技を知ってもらって、パラスポーツを広めていくことができたら良いなと思います。そして、パラスポーツの価値をもう一度考えてもらう良い機会になれば。特に障がいを持っている子供たちには、アスリートの躍動している姿を感じてもらい、自分も将来こんなことができたらと夢を持ってもらえたら、僕らがやっていることに意味があると思います。
 ブラインドサッカーの選手をはじめパラリンピックに出る選手の価値にも注目です。彼らは、普通の人ができないことをやっています。ブラインドサッカーの選手は、目が見えない中でサッカーをするという大変難しいことを成し遂げています。彼らに、心の底から称賛、拍手を送りたいです。

(令和2年10月 東京都オリンピック・パラリンピック準備局パラリンピック部調整課インタビュー)