ボート

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競技はブイで仕切られた6つの直線コース2000mで行われます。障がいの程度によって競技種目が異なります。4人の漕ぎ手(男女混成2:2)と1人のコックスで1チームの「フォア」、男女混成の2人乗り「ダブルスカル」、男女別の1人乗り「シングルスカル」の3種目4競技があります。 ボート

体験を行ったのは、2019年3月17日(日)、板橋区荒川河川敷にて開催された「2019板橋Cityマラソン」内での「NO LIMITS CHALLENGE」体験会です。

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体験内容は、選手たちが練習にも使用しているローイングマシンで、ボートを100m漕いでもらい、そのタイムを計測します。体験のアドバイスしていただいたのは、リオ2016パラリンピック競技大会へ出場された駒崎茂選手です。

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足を蹴りだして、腕で大きく引き寄せる

体験をするのは、この日、マラソン大会に参加していた小学2年生の娘さんとお母さんの親子です。マラソン大会に参加しているお父さんのゴールを待っている間、体験会に参加してみたそうです。ボート競技を見たことがなく、ローイングマシンを体験するのも初めてとのこと。

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たくさんの体験希望者たちが見守るなか、まずは駒崎茂選手によるデモンストレーションが行われました。今回、駒崎選手は義足を使い、健常者と同じような動きでデモンストレーションを行ってくれたのですが、漕ぐごとに上がっていくメーターの数字に、みんなが驚かされました。

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最初は、お母さんから挑戦です。足元を固定して、しっかりとハンドルを握ります。初めはゆっくりと動作確認をしましたが「結構、力がいりますね」とのこと。駒崎選手が「足を蹴りだして、腕でハンドルを大きく引き寄せるのがコツです」とアドバイスしてくれました。

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娘さんの応援を背中に受けて、体験をスタート。最初は戸惑いながらも、だんだんコツを掴んできましたが、後半、疲れてペースダウンしてしまい、スタッフから「あとちょっとです! 頑張って!」と声援を受けて、なんとか終了。「これは、本当に大変ですね」と笑っていました。

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次は娘さんが挑戦。この日、キッズマラソンにも参加するほど運動が好きな娘さんは、お母さんの体験をしっかりと見ていたのか、最初からスムーズにローイングマシンを漕いでいく姿に、お母さんは私より上手いと応援しています。結果は、お母さんよりも2秒速いタイムを記録しました。

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お鍋の蓋を回すようなイメージでドラムを回転させる

体験会後、体験をしてもらった村田さん親子とゲストアスリートの駒崎選手で、体験会の感想を話していただきました。

駒崎選手 これまでボート競技のことはご存知でしたか。

お母さん すいません、カヌーとボートの違いも意識していませんでした。

駒崎選手 カヌーは進む方向どおり前向いて200m~1000mでレースをしますが、ボートは進行方向を後ろ向きに2000mを全力で漕ぎます。結構、過酷な競技ですね。今日は体験してみていかがでしたか。

娘さん 力を入れても、なかなか進まず、記録は30秒でした。

お母さん 私は30秒を切れなくて32秒でした。皆さん簡単にやっているみたいだったので、もっといけるかなと思っていたら、子どもと変わらなくて(苦笑)。もっとタイムを速くするにはどうすればいいのでしょうか。

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駒崎選手 あれにはコツがあるんです。タイムや数字を追ってしまうと漕ぎが小さくなって空回りしてしまいます。ローイングマシンは大きく前に出て、強く引いて、戻すなかで休んでというコツが分かってくると速くなります。前の丸い部分にドラムが入っているので、それをお鍋の蓋を回すようなイメージでドラムを回転させると、もっと上手になると思います。

お母さん 実際のボートの動きでも同じなのでしょうか。

駒崎選手 はい、そうです。私たちもローイングマシンを使って練習をしており、自宅にもあります。8人乗りのボートでは全員が揃って練習できる機会が少ないので、各自がローイングマシンで練習しています。例えば1分間に20回漕ぐ設定で練習していれば、いざ、ボートに乗った時にピッチ20といえば全員が同じピッチで揃って漕げるのです。

お母さん 動きを身体に染み込ませるわけですね。

駒崎選手 最近では、野球、水泳、柔道、ラグビーでもローイングマシンを使って、持久のトレーニングをしているそうです。きっと娘さんもローイングマシンで練習したら、もっとマラソンの順位が上がると思いますよ(笑)

娘さん へええ(笑)

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僕の場合は足の代わりに体幹を飛ばします

お母さん アスリートの方が実際に競技でボートを漕いでいる時はどれぐらいのスピードなのでしょうか。

駒崎選手 健常者の一人乗りスカル、トップクラスの男性選手では2000mを7分ぐらいです。ローイングマシンになるとそれより速く、6分15秒ぐらいになります。世界では、ローイングマシンだけの大会もあって5分台のタイムの選手もいます。

お母さん 2000mを漕ぎ続けるには、どのへんの筋肉を一番使いますか。

駒崎選手 スライディングできる場合には基本的に7割は足で、足で蹴って、最後に腕を使います。大きく強く漕いで、リラックスしながらオールを戻すと2000mでもいけると思います。腕だけで漕ぐとすぐに乳酸が溜まってしまって漕げなくなってしまいます。

お母さん 駒崎選手のように下肢に障がいのある選手は、どのように漕いでいるのでしょうか。

駒崎選手 僕の場合は「体幹」ですね。体幹を飛ばして最後に腕です。キャッチで掴んだものを体幹で飛ばして、最後は足で踏ん張ることを意識して漕いでいます。

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お母さん 今日は合宿先の相模原からいらしたそうですが、いつもどのような練習をしていますか。

駒崎選手 1日おきに基本的な練習メニューがあって、今日はローイングマシンでの練習、次の日はウエイトトレーニングで体幹を鍛えるなど、冬のオフシーズンには決められたメニューを継続していますし、大会前には大会に合わせたメニューをこなしています。

現在、オフは月曜日だけで、それ以外は金曜日まで自宅で練習をして、この時期だと週末はほぼ合宿です。相模湖や、この会場から橋向かいの戸田市にある戸田ボートコースなどで合宿をしています。

お母さん 屋外競技ですが雨天でも行われるのですか。

駒崎選手 カミナリや転覆の恐れがあるほどの強風でなければ雨でも行われます。風で波が強い日もありますし、自然が相手というのもボート競技の魅力の一つです。

お母さん ボート競技で勝つ方法はありますか。

駒崎選手 競技では6艇が一斉にスタートしますが、そのスタートダッシュがレースの決め手となります。少しでも先に出られると、後から来る選手の様子を伺いながら試合を進めることができますが、逆に先に出られてしまうと、こちらからは後ろを見られないので、最後まで全力で漕ぐしかありません。そして最後の500mの駆け引きが勝負となります。残り500mからゴールにかけてのコース脇には観客席があるので、1番レースが盛り上がるところをご覧いただきたいですね。

お母さん それは盛り上がりそうですね。

駒崎選手 なかなかボート競技を観ていただく環境がないですが、今日のボート体験が観戦への興味に繋がってくれると嬉しいですね。すぐ近くの戸田ボートコースでは、8月に行われる世界選手権の代表権を狙っている日本のトップ選手たちが合宿をしています。せっかく、近くにお住まいなら、ぜひ、日本の一流選手たちを間近で見てください。

年齢は経験と技術でカバー

お母さん 駒崎選手はいつからボート競技を始めたのですか。

駒崎選手 僕はボート競技を始めて8年目になります。41歳の時に交通事故で両足を失って、最初はリハビリを兼ねて水泳を始めましたが、2011年から水泳仲間から誘われボート競技へ転向しました。じつは水泳とボートには共通点が多く、水泳もボートも水をキャッチする筋肉が同じなんです。

僕は埼玉県出身で両親が川口に住んでいました。まさか、この歳になってその近くの戸田でボートを漕いでるなんて想像もしていませんでした(笑)。

お母さん 先ほど年齢の話も出ましたが、歳を重ねても第一線の競技者でいられるのは何故ですか。

駒崎選手 年齢をカバーできるのは経験と技術です。2000mという距離の中で何回漕ぐのか、それを、いかに自分のイメージ通りに漕げるのか、ミスを1回犯しただけでも勝てません。僕が2016年のリオ大会で学んだことは、大きな大会では、ふだんと違う動きをすると勝てないということです。ふだんの練習から本番を意識しながらトレーニングしています。

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お母さん 競技用ボートは選手が所有しているものですか。

駒崎選手 ほとんどは個人所有ではなく、チームや協会の所有となっています。というのも大きなボートですので保管するにも結構な維持費がかかりますし、ボート自体も外に展示されていた1人乗り用のカーボン製ボートで140万円ぐらい、8人乗りともなれば1000万円近くする高価なものです。

お母さん ボートの大きさや仕様はルールで決められているのですか。

駒崎選手 リギングといって、その人の体型や体格によって自分が漕ぎやすいように調整することができます。障がいのクラスによっては浮き袋みたいな物が付いたボートもあります。ボートごとに工夫がされています。

娘さん (義足を指しながら)どうやって歩いているのですか。

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駒崎選手 今日は車椅子ではなく、あえて皆さんに義足が見えるように半ズボンにしました。いまは下肢に障がいがあっても訓練次第で歩くことができます。両足の義足で歩くイメージを伝えるなら、高めの竹馬に乗ってもらって手放しで歩くようなイメージです。

お母さん 最後に東京2020大会に向けての意気込みをお願いします。

駒崎選手 今回、東京湾の「海の森水上競技場」という近い場所で行われるので、ぜひ、会場に来ていただきたいです。そして、先ほど言いましたラスト500mの駆け引きを見ながら、全力でボートを漕ぐ選手たちを応援して欲しいです。「頑張れ」の声は選手には聞こえます。僕も2016年のリオ大会では日本人学校の生徒さんたちの声援を聞いて、それが励みとなり、力になりました。

お母さん 今日、体験させてもらったことや、自分たちの近くでボート競技の合宿が行われていることを知って、いままで知らなかったボート競技を身近に感じました。東京2020大会を楽しみにしていますので、駒崎選手も出場に向けて頑張ってください!

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