ボッチャ

今回、体験した競技は「ボッチャ」。もともとはヨーロッパで生まれた、重度脳性麻痺者や同程度の四肢重度機能障がい者のために考案されたスポーツで、1988年のソウル大会からパラリンピックの正式競技になりました。

日本では2016年のリオパラリンピックにおいてチーム戦で銀メダルを獲得したことから知名度をあげ、ゲーム性の高さから障がいの有無を問わず、だれもが参加できるスポーツとしてじわじわ人気を高めつつある注目競技です。

体験を行ったのは、2019年3月17日(日)、中野四季の森公園にて開催された「東京2020大会に向けた開催500日前カウントダウン事業 in NAKANO」内での「NO LIMITS CHALLENGE」体験会。

競技用と同じ規格のコートを使ったゲームに実際に参加していただきます。アドバイスしてくださったのは、東京2020大会での活躍が期待されている蛯沢文子さんです。

ジャックに寄せよう

ボッチャは2つのチームの対戦形式で行われます。12.5×6メートルのコートで、「ジャックボール」と呼ばれる白いボールを的に、自分たちのボールを投げたり転がしたりし、より近づけたチームの勝ちというルール。

体験の前にまずはアスリートプログラムとして、蛯沢さんによるデモンストレーションが行われました。

投げるのは2.5m×1mのスローイングボックス内。脳原生疾患を患う蛯沢選手は車椅子の上からのスローとなります。

コート内のジャックボール(白いボール)に狙いを定め、3、4回振って勢いをつけ......

ジャックボールめがけて、勢いよく下から投げます。

赤いボールはジャックの10cmほど横に。これはアプローチという、ジャックボールに寄せる技なのだそう。

ほかにも、プッシュ、ヒットなどさまざまな球種があるそうです。

多彩な技を駆使し自在にボールを操りながらスローを続けるうちに、ジャックボールが蛯沢さんのボールで囲まれました。

さすが!...と思いながらいよいよ体験会のスタートです。

見るとやるとでは大ちがい

年齢や性別関係なく楽しめるというのがボッチャの魅力のひとつ。体験者も老若男女さまざまな人が集まりました。

イベントに遊びにきていた親子も参加。小学校2年生になる息子さんは好奇心が旺盛でふだんからいろいろなことに挑戦したがるらしく、ボッチャ体験にもやる気まんまんで参加してくれました。せっかくだからとお母さまも体験。

蛯沢さんのデモンストレーションを見ている最中から、うずうずしていたようすの息子さん、まずは練習の1投目。ころころと転がって白いジャックボールの近くにいき、その距離は30センチほど! ほかの体験者の方のボールは、ジャックを大きく超えて転がっていったり、かなり手前で止まったりとなかなかうまくいきません。

練習でいちばん近かったのはなんと息子さんのボールでした。これはなかなか好感触。

ルールのおさらいをしてからいよいよ本番です。

ジャックボールとの距離をコンパスのような専用器具で計測。

息子さんの本番1投目、気合を入れてスロー!

......するとボールはジャックをそれてはるか先までいってしまいました。

これがボッチャの落とし穴。前のスローがうまくいくと次は力みが入り、強いボールになってしまうのだそうです。

残念!

赤チーム、青チームがルールに沿った順番で次々と進めていきます。2投目はお母さん登場。はじめてのスローはさて?

息子さんのアドバイスむなしく、練習なしで挑んだお母さんのボールはコートをはみ出てはるかかなたに......(笑)

これもやはり「息子にいいところを見せねば!」という母の気負いが力みにつながったのかもしれません。

ボッチャは全員が2球ずつ投げ終えたところで1エンド終了となります。公式試合では4〜6エンドで1試合となりますが、今回の体験会では1エンドずつで終了。

このエンドではジャックのいちばん近くにあるのは赤いボールばかり。よって赤チームの勝ちということになります。

その後も2エンドほど参加した親子に蛯沢さんを交え、体験会の感想を話していただきました。

蛯沢選手 ボッチャのことはご存知でしたか?

お母さん いえ、今日の体験会ではじめて知りました。でも周りの人は知っていたようで、ブームにもなっているようですね。

蛯沢選手 体験されてみてどうでしたか。

息子さん おもしろかった! でも負けたのが悔しい。

お母さん 楽しかったです。力加減がむずかしいですね。あまり力を入れないほうがいいというのはわかったんですが、いざ投げるとなると力んでしまって、すごく先までいっちゃいました。

蛯沢選手 そうなんです。それが落とし穴で、ちょっとした加減の差で力が入ったり、逆にぜんぜん足りなかったり。私が始めたときも最初に感じた難しさはそこでした。

コツはジャックボールの少し手前に落とすことなのですが、勝ちたいという思いが強いと力むし、緊張すると弱腰になるし

お母さん 繊細なスポーツなんですね。技もいろいろあるようですね。アプローチとかヒットといった言葉を耳にしました。

蛯沢選手 はい、ジャックボールに寄せるアプローチ、すでにあるボールに当てて近づけるプッシュ、邪魔になる相手のボールをどかすヒットの3種類があって、それぞれボールの投げ方がちがいます。

お母さん そんなに? 蛯沢さんはもちろん全部投げ分けができるわけですよね。やはり練習の成果なんでしょうか。

蛯沢選手 そうですね。最初の半年で力加減を調整できるようになり、その次が3種の技の習得でした。私がいちばん得意なのはアプローチです。

お母さん やはりコントロールがいい人が強いのでしょうか。

蛯沢選手 コントロールは基本のキです。勝つためのもっとも重要な要素は戦略です。

お母さん 戦略ですか?

蛯沢選手 ボッチャの大きな特徴は的になるジャックボールを動かせるという点です。たとえば赤チームがずっと優勢だったのに、最後の1投でジャックボールが青ボールがかたまっているところに移動し、大逆転というようにドラマチックな展開もあるのです。

最後の最後までわからないので、どんな戦略なのか、一手先、二手先を想像しながら見ていただくのもおもしろいと思います。

お母さん デモンストレーションを見ていたときは、シンプルなスポーツだと思っていましたが、奥が深いんですね。カーリングと同じように、見ているうちにどんどんハマってしまいそう。

蛯沢選手 リオ2016大会で注目されてから、興味をもたれた方が多いようです。見るだけではなく競技人口自体が増えつつあります。男女関係なく小さい子もお年寄りもいっしょに楽しめますし、そんなに広いスペースも必要ないので。用意するのはボールだけですね。

お母さん ボールは革製ですか? ちょっと高価そう......。

蛯沢選手 ボールは赤青各6個とジャックボール1つの13個セットで売っています。一般の人が使うタイプなら合皮製のタイプが最近は2万円前後から入手できます。ひとり1セットもつ必要はないので、いっしょに楽しむメンバーみんなで購入するといいと思いますよ。

私たちが使うのは本革製のものなど、選手それぞれカスタマイズしているのでちょっと高くなりますが、それはどのスポーツも同じですよね。

私の場合は、素材ややわらかさなども試行錯誤していまの仕様に落ち着きました。

蛯沢さんのマイボール。青がヒットに使う合皮製。赤はアプローチに使う本革製

お母さん 蛯沢さんはいつ、どんなきっかけでボッチャを始められたのでしょう。

蛯沢選手 10年ほど前に友人に誘われたのがきっかけです。戦略をたてるおもしろさに惹かれ、すぐに夢中になりました。最初は趣味のつもりでしたが、やっているうちに競技会でいい成績が出るようになり、3年ほど前に強化選手に指定していただきました。意識が変わりましたね。

息子さん 東京2020大会には出るんですか?

蛯沢選手 はい、ぜひ出場したいし、メダルをとりたいですね。いま、ボッチャはタイを筆頭にアジアがとても強いのです。開催国代表として戦ってよい結果を出したいと思っています。

お母さん 楽しみです! 蛯沢さんが出たら周りの人に自慢しちゃいます。

蛯沢選手 ありがとうございます。いまのチームは、キャプテンが戦略を練り、私ともうひとりもヒットやアプローチなど役割分担バランスよく機能しています。もっともっと自分の制度を高めて、貢献したいと思っているので応援よろしくお願いいたします。

お母さん ぜひ出場してください。応援しています。

息子さん がんばってください!